銃弾を噛む

遊ぶために生きる 生きるために遊ぶ

一生を変えるカクテル

「一日を変え、一生を変えるカクテルーー」
谺。縺ッ__一生を変えるカクテル、ね。』
「……を。」
「なんで溜めたんだ。」
「そういう気分だったの。」
「どういう気分だ……。」

「ん、こいつ賞味期限切れてる……。一応新しいのに変えてくる。」
「うん。」


「(初っ端から出てこないで。びっくりする。)」
『一生を変えるカクテルってどういうものだと思う?』
「(無視? どういうもの、って言われても。)」
『例えば、ジョーが非番の日にね。』
「(……私昨日非番だったんだけど。)」
『あら、それは偶然。』
『それで、いきなりギルが慌てて店を飛び出して行くんだけど、ディナは何か知ってるみたいで止めないの。それで彼女が一人だけで仕方なくカウンターに立ってるところに、客が一人飛び込んでくる。』
「(本当に例え話?)」
『ふふ。どうしたのか話を聞いてみたら、その客は何か口に病気を抱えてて、1時間後に顔の下半分全部を機械化する予定なのに、病院に行く途中でここに来たってことが分かって。それでその客がまくしたてるの。』
『「手術を決めた一か月前からさっきまでは何とも思ってなかったのに、いざ病院に向かおうとしたらなぜか急に……寂しくなって。怖いわけでもないし、悲しいわけでもない、ただ寂しいんです。これが錯覚みたいなものだということは分かっています。味覚だって今のものを元に完全に復元されるはずですし、顔を機械化している人なんてもうたくさん居て、脳だけで生きているなんていう人すらいるのに。でも、本当にひどく寂しいんです。これで死ぬわけでもないのに、最後に何か、何でもいいから味わっておきたいと思って、その時丁度見えた看板に、ここに来たんです。時間もありません。自分が何を味わいたいのかも分かりません。なぜこんな感情を抱いているのかも分からないのに、そんなこと分かるわけがないですが。」』

『「ですから、どうか、あなたの一番のお気に入りをお願いします。」って。』
「(……。)」
『ディナは静かに聞いてたんだれど、聞き終わるといつものふてぶてしい笑顔で「よし! ならとっておきの一番を作ってやろう。」「まあ、それしかマトモに作れないんだが。」とか言って、カクテルを作り始めるの。』
「(ボスらしい。)」
『そしたらね、氷だけひとかけらシェーカーに入れたと思ったら、めちゃくちゃ速く振って粉々にするの! びっくりしちゃった。それをグラスに入れるんだよ。』
「(……それはクラッシュト・アイスっていうの。経費削減とか工数削減のためにレシピやアイスピックごとBTCに排除されてるんだけど……そんな手があったとは、いや、そんな手を使える、というか使おうとする人なんてボスしかいないかな。)」
「(自分の例え話でびっくりできるものなの?)」
『ふふ。そこにね、カルモトリンをたくさん使ってサンシャインクラウドを作って、グラスに注いで、「これを飲んだのは内緒だぞ。3杯作るだけでシェーカーがダメになるんだ」って言いながら出すの。』

『どう?このカクテルは一生を変えたと思う?』


「(わからないでしょ、そんなの。)」
『あら、そっけない。』
「(私がその客だったら間違いなく一生が変わっちゃうと思うけどね。というか、ボスにそんなことされたら……一生どころか来世まで変わっちゃうかも。)」
「そんなことされなくても、もう変わってたりして。」
「(否定はできない。まあ、つまり、結局飲んだ人次第だから。身も蓋もないけど。)」

「(私も気持ちを込めて一杯のカクテルを作ることはあるし、その気持ちが伝わったらいいなとも思う。)」
「(ただそれは私自身の中で完結してる、独りよがりなものだから。だから一生を変えるカクテル、っていうのは、お祈りみたいなものなのかも。でも……。)」
『でも?』
「(すくなくともその人の一日は変わったんじゃないかな。)」
『そう、だろうね。』
「(これもやっぱりお祈りだけど。)」
『お祈り。お祈りね。ふふ。: ' ,.サ 繧ゅ▲縺ィ______

 

 

 

原作 VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action

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