銃弾を噛む

遊ぶために生きる 生きるために遊ぶ

あの男についての覚え書き

二年前くらいに書いたやつです

ネットに上げておかないといけない気がしたので上げておきます

 

 

 silver1341は死んでいたらしい。死んだのではなく。
 10月31日に、下宿先で、何らかの方法で命を絶ったと。


 それを知ったのは11月も16日になってからだった。
 夜、帽子くんのDM経由でサバゲーチーム"SCOU"隊長のLINEメッセージが回ってきた。「silverくんが留学先で死亡したらしい」と。あいつにSkypeで電話を掛けても、DMを送っても反応はなかった。

 確かめたくて、あおいちゃんと待ち合わせて、きつい坂を登った先にあるあいつの実家へ自転車を漕いでいった。あの坂を登る時はいつも晴れで、夏はだらだら汗を流しながら登って、家の冷房で生き返った気分になった記憶がある。その日も晴れで、星が出ていた。
 インターフォンを押した。誰も出なかった。本当なんだなと直感で分かった。

 それの帰り道には「どっかではそうだと思ってたんだよ」と泣きながら何度も繰り返し、あおいちゃんはずっと黙って聞いていたが、別れる時に、「お前、帰りに事故るなよ」とだけ言った。

 

 自殺の噂が立ったし、それはすぐに事実だと分かった。証拠はあいつのツイッターアカウントに今でも残っている。

 「自転車事故」という体で事が公になってから、告別式だったか、とにかく式があいつの実家で行われた。雪が降っていて、「No rain No lifeって言ってた割には、肝心のときには雪が降るんだね」と久しぶりに会った中学時代の友達に話した。家に入ると、テレビには先に英国で行われていた葬式の映像が流れていて、それにはあいつのお母さんの泣き叫ぶ声が録音されていた。参加できなかったのを悔しいとでも思うはずだろうが、実際はぼーっとそれを見ていただけだった。

 

 現実感はなかった。

 

 あいつが"渡英漢"になってからは当然話すのはネットの中だけで、まだあいつは生きていてどこかでFPSでもしてるんじゃないかという考えに支配されていて 、そして今でもそうじゃないかと本当は思っている。これは別にネットだけの話ではなくて、だれか大切な人の死んだ後の姿を見られなかった人間は皆こういう考えに囚われてしまうんじゃないかと思う。

 

  だけど、ただひとつ、胸に穴が空いているという表現があるが、あの形容の的確さを知った。指を差して表せるわけではないけど、とにかく胸のどこかに、 確かな空白がある。人間は、自分の体の中身について理屈では内臓が詰まっているだけだと知っているけど、本当は皆「自分」という何か均一なもので満たされていると思っている。紙にパンチで穴を開けたみたいに、その「自分」に空白ができているという表現が近い。

 

 なぜ自殺したのか理由は教わらなかった、死因すら聞けなかったのに理由を教わっているはずもない。
 だけどさんぴちゃんの考察に曰く、「ロンドン芸大の入学試験のプレッシャーに耐えきれず自殺した」と。さんぴちゃんはいつも正しかったし、きっとこれが正解なんだろう。あいつが留学前に送ってきた文章に書いてあった「スノッブ効果」とやらに従って、県指折りの進学校からロンドン芸大に進学なんていう跳躍を決めた人間が死んだ理由がこんなものだとは、あまりにも陳腐すぎるし、ひどい皮肉だと思う。

 

 そして、これは、その日からのおれの言い訳の種になった。
 「11年も付き合った一番の親友が自殺したんじゃ、勉強しなくてもしょうがない」
 今まで言い訳ばかりつこうとしてきて、その種が見つからないおかげでなんとかしぶしぶと何かをしていたおれが、種を見付けてしまった。
 「11年も付き合った一番の親友が自殺したんじゃ、留年してもしょうがない」
 高専には行かなくなった。当然一年の留年をした。人間は堕落すると早い。

 

 それで、おれが新しい4年生を初めて、さんぴちゃんはセンター試験一週間前までMinecraftPvPしながら東大理三に現役合格して、おんみょちゃんが大人びた中学生から高校生になって、Relemyの、ゆかりごはんが消える夢が正夢になって、silver1341が居ないところも、俺が「そっか、そうだよな、わかってた」 って言うところも予言したんだね。

 さんぴちゃんがpostした。「HCFゆかりごはん、本当に楽しかったんだなあ」

 

 あいつが死んだのは10月31日で、最後に一緒にBf4をやったのは10月27日だ。しょうもないDLC兵器マップに嫌気が差したおれたちは、しかし面倒臭がって鯖を変えることもせず、ひたすらバイクにC4を付けて飛ばして遊んでいた。
 一緒に笑いあいながらゲームをしていたその心の内で何を考えていたのか未だに分からないし、何をしてやれば止められたのか、もっと何か出来たのではないかと後悔してもしきれない。
 だけど、後悔するよりかは、今いる友達たちとまた笑いあいながらゲームした方がいい、というのが唯一確かな答えなのかもしれない。